食べる知恵は、生きる知恵。それは時代とともに変化している

1)人間に必要な栄養素をすべてまかなった食物は自然界に存在しない

さて、私たち人間が生きるには、じつに多くの栄養素が必要であることがおわかり頂けたでしょうか。
これらの栄養素を食物を食べることによって、取り込まなければならないわけですが、残念ながら、自然界には、このような組成の物質や生物は存在しません。あるかもしれませんが、まだ発見されていません。
よって、身近な食材を組み合わせて調達しなければならないのです。

2)多種多様なものを食べる。このことこそが人類のしぶとさの根源

とはいえ、逆を言えば、人間は実に多くのものを栄養源とすることができる、ともいえます。
もしも、人間が、一つの食物だけに頼って生きていたとすれば、その食物の絶滅とともに、人間の絶滅も訪れる事になります。
食べ物の幅をひろく持ち、なおかつ「調理」することを手に入れたことで、人間は飛躍的に生存率を高められたのです。

それを裏付けるものとして、私たちが暮らす、それぞれの土地には、その土地特有の伝統食があります。
この伝統食の発生には、その土地に暮らす人々に危機的状況が訪れたことが背景にあることがあります。
今では考えられないようなものを食材にしていたことを伺える土地もあります。
環境は時に生物には厳しく、生存を許さないことがあります。
与えられたその条件の中で試行錯誤しながら暮らすことが私たちの体をたくましくしてきた、という側面もあるのがわかります。

3)栄養バランスにおいても、先人の知恵がある

危機的な状況でなくとも、日々の食生活において、どんなものをどれだけ食べればいいのか、という問題にも、実は昔から、様々な方法が編み出されています。
禅の寺には5色のものをとりいれるよう、色でバランスをはかる知恵があります。この知恵は今でも充分通用するものです。
そのほかにも、「医食同源」とする中国の文化を背景にしている分野では、食事における法則は様々に伝えられています。
さらに、私たちの暮らす日本が文化として培って来た「和食」は、栄養素のバランスだけでなく、近年注目されている食物繊維や、発酵食品の取り入れをも叶えた、理想的な食事スタイルです。
日本に生きた多くの先人たちによって確立されたこの食文化は、いま世界的にも注目されています。

4)あまたある食の法則

学問として栄養学が発展するとともに、様々な研究機関や医師、識者などもその持論によって、様々な食の法則を発表していたりします。
教育機関の給食では、食品を3つのグループにわけて、それらをまんべんなくとろう、と指導しています。
また、もう少し専門的になると、女子栄養大学による四群点数法があります。厚生労働省などの国の機関とも協力して、栄養に関するデータをもとに、作成されています。これは、食品を4つのグループにわけ、比率に応じて用意する方法です。
その他にも、多くの方法が編み出されています。
どれも、それぞれが根拠とするデータや理論があり、私たちは、これこそ信じられる法則だ、と思うものに出遭えば、どれを実践してみるのも自由なのです。

5)国が示した食の指針「食事バランスガイド」

しかし、このような食に体する知識や関心をもつ家庭ばかりではありません。そこで、国は、極力、専門的な知識がなくても、直感的に栄養バランスが整うような、指標づくりに着手・作成し、発表しています。
それが、厚生労働省、農林水産省が発表する「食事バランスガイド」です。
日本人の健康においての医学的な見地と統計、また食品の科学的なデータももとに作成されていますが、使う側が、カロリーだ、ビタミン、ミネラルだ、というこまかい話を理解しなくとも、ある程度把握できるよう、食品、あるいは食事の品目に着目した、わかりやすい指標になっています。

農林水産省「食事バランスガイド」 について